千翠流押絵 Chisuiryu Oshie
作品論評(Comment)
孔雀 屏風
KUJAKU(peacock)
綿をつめた布をモザイクのように組み合わせて製作する。押絵は立体的な絵画、レリーフの一種と考えていい。華やかな色彩をもった布を使用すれば、染の美しさとともに豪華で絢爛さが表現できる。正倉院の「人勝」にその技法のじはじまりがみえるという。
押絵が盛んになったのは、江戸時代だ。多くの女中たちが好んで制作していた。次第に一般にも流行し、手引書なども出版されている。艶やかで、立体的な表現が好まれたのだろう。いまでは羽子板にその技法が伝承されている。作家はその技術を受け継ぎ、現代的な造形技術に昇華させていく。日本的趣味性を取り入れながら、海外でも注目されている。
鳥の王者と云われる孔雀をテーマにした作品は気品のある姿を玲瓏と描きだす。首を高くあげ、五彩の羽根を長く横たえる。たくましく足を張って精気が充ちる。作家のもつ意思が、昂揚しながら伝わってくる。
(文 柳生 不二雄)
©株式会社 麗人社
白鷺 屏風
SHIRASAGI(WhiteEgrets)
押絵独特の美しさを求めて
布や和紙などを使用した押絵には、特有の凹凸感があって、絵画、工芸、そして彫刻などの要素を併せ持った独特の雰囲気を醸し出している。平面的な絵画では、成し得ない陰影があり、完全な立体ではない抑制感があり、またそれらが工芸的な質を持った仕事で作り出されている。三つの分野から醸し出される特性が混ざり合って、この手法特有の佇まいを作り出すのである。白質の均一な白色が印象的であるが、これは布などの素材の色であり、塗りでは得られない質感と統一感がある。これは木の幹の表現にもいえることであり、根本から枝の先まで、均一な薄茶色をベースにした色彩構成が見られる。これは平面性と微量な立体性を融合した味わいであり、押絵独特のスタイルといえるのだろう。中村翠芳氏は、写実という行為と押絵という手法の融合点で起こる摩擦や乖離を、強い魅力へと変換してゆく力に長けている。
(文 大竹 海)
白鷺城(姫路城) 屏風
SIRASAGIJO(HIMEJIJO)
大きく空間に開いていく、品格の白色
押絵という伝統芸術において、千翠流という独自の流派を創流し、多くの弟子を持つ中村翠芳氏の作品である。この作品は氏の代表作のひとつであり、河原の細かい部分の限界を探るような挑戦心が宿る作品である。壮麗な姿で名高いという「白鷺城」を主題としているが、オフホワイトの空に純白の城の壁がとけ込んでいる。この二つの白色の組み合わせが、作品に品格を作り出しているといえるだろう。静かで寡黙な空の白色と透き通るような純白の壁が寄り添うことで、互いの白色をより洗練させているのである。大きく空間に開いてゆく城と空が描かれた画面上半分を支えるように、ヒューマンスケールの樹木の存在が優しく描かれている。その対比的な画面構成も我々の心を引き付けるポイントであろう。
(文 オーエン・ハント)
たそがれ 30号
TASOGARE
押絵の優れた腕と豊かな絵画的な目。押絵作家中村翠芳は今回その作品「たそがれ」で再び我々の目を楽しませてくれる。
中村は千翠流押絵家元として、自らが主催する流派の数多くのグループ展を主催するなど精力的な活動を続けている。家元としての立場からこうしたグループ展が多いが、数少ない個展のうちのひとつとして98年にはマドリードのカタルシス・ギャラリーで個展を開き、好評を得ている。日本古来の伝統美術と現代美術を組合せ、和紙をベースにして伝統的な着物の絹の感触と光沢感を表現した押絵からは、豪華な質感と同時にそこから彷彿してくる何か煌らかなものが鑑賞する者の心に伝わってくる。中村翠芳の作品はすべからく高潔な気品に溢れた雰囲気を持つ均衡のとれた構図を基本としており、この掲載作品「たそがれ」に見られるようにその威厳に満ちた厳粛な雰囲気は時には静的でさえある。例えばこの作品中の2人の女性はあたかも永遠のオーラに包まれているが如くに物静かである。背景の竹笹や人物の周りの筆づかいなどは日本の伝統演劇である能の世界のようである。
(文 ジアンナ プロダン デ ガルシア)
©株式会社 麗人社
能羽衣 30号
NOUHAGOROMO
我々は中村翠芳の絵によって日本の伝統の壮観さをみることができる。例えば「能羽衣(1996)」と題された彼女の作品は彼女の持つ芸術の意味、また彼女のスタイルをよく表している。ここでは絵画よりも色付けについて述べたほうがよいだろう。というのは、綿を詰めた布から大量に彼女が作り出してきたものにこそ、この作家の独創が存在するからである。これは非絵画の技術であり、もう一人の有名な作家をその例としてあげることができる。
(文 マリア ドローレス アロージョ フェルナンデス)
©株式会社 麗人社
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